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一枚の写真から 「顧不顧の会」
  


写真には昭和29年(1954)前橋岡源亭、晩春、高橋黄裳、水原徳言、白井晟一と裏書きされている。

秋田の時代がほぼ終焉を迎えた1952年ころから、短い期間ではあったが白井晟一は群馬県下で幾つかの建築を設計した。知宵亭(岡源 1954)、煥乎堂書店(1954)、松井田町役場(1956)、半僧房計画(1955)である。

この写真が写された前橋の料亭岡源は群馬県下の文人や芸術家がよく集ったところで、ロダンに師事した彫刻家の高田博厚、後に芸術院会員になる彫刻家分部順治、俳人で「みそさざい」の主幹上村占魚、それに写真の、高村光太郎賞を受賞した詩人で、萩原朔太郎からも称賛された煥乎堂のオーナーであった高橋黄裳(元吉)、ブルーノタウトに日本で師事した水原徳言などである。

東京江古田のアトリエNo.6(1955)は分部の住宅兼アトリエ、小平の家(1954)は上村の仕事場兼住宅だった。完成した建築に便所があるのを見て、夫婦で抱き合って喜んだという逸話がのこされている。ともに「無償の行為」で設計されたものだったから、口をはさむことができなかったのかもしれない。この2つに限らず、当時白井の設計監理をした住宅では殆ど設計料は発生していなかった。代わりに桜の下駄を御礼にもらった、という話もある。

高橋、水原、白井の三人がときどき会合して座談を展開したのが「顧不顧の会」と呼ばれたものなのだが、その座談の内容は伝わっていない。唯一、水原が書き下ろした「白井晟一の人と建築 縄文的なるもの」(1979 相模書房)の中でその由緒が短く述べられているのみである。

「『顧不顧』というのは誰がいい出したのか、高橋元吉が路辺の小さな石を拾ってきてそれがよく見ると驚くばかり美しいものであることを示したところから始まったかと思う。
白井晟一の建築も、高橋元吉の詩も、その頃知る人は知って貴ぶものだとしても広く世に容れられるものであったとはいえない。それがあって『顧不顧』といったのかも知れない。後に『顧之』と号するのはこれによるものだろうと思う。」

つづけて水原が「知宵亭」の設計依頼の若い主人夫妻を、白井の当時の自邸「滴々居」に案内した時のことを記しているのが面白いので引用させて頂く。

「私はそれ以前に知っていたが、、その頃の白井邸は今も語りぐさとなっているように、浴室はもとより台所も、便所さえもない。屋根は下葺きだけで少し雨が降ればこれも下地のままの天井から漏ってきた。眠ったわけではないから泊めていただいたといえば適当ではないだろうが朝まで話つづけて帰ったこともあるけれども、さすがに長い時間になると便所がないのには閉口した。「ああ構わんです、どうぞその辺で」というのだが、そこは車の往来が激しい道路である、しかも白井自身はすっ裸でその道に出るのだから、並んで小便をしても落着けない。
 そういう家だということはあらかじめ話しておいたけれども、モルタルの下塗りだけで金網が見える壁から電線が出て裸電球がぶら下がって、その壁に落書きされたように「白井」と書いてある、そこが入口なのだからおどろいたろうと思う。
 しかしその家に迎えいれてくれた白井の暖かい応接は若い二人の心を解きほぐして、頼り切ってまかせることになる。(後略)」

水原徳言は「知宵亭」の設計に参加したばかりでなく、松井田町役場の新築に白井を推薦し、当時の大河原町長と引きあわせたり、実現しなかったが半僧房を白井の設計で実現することを企てたり、白井とは浅からぬ交流のあった人物である。その後二〇年近くの時を置いて、「白井晟一研究機廚杷魄罎砲弔い届世犬燭里きっかけで、「顧之居書帖 二」で昏元論を展開し、さらに上記の「白井晟一の人と建築」を書きあげている。「石水館」建設の際には、柳宗理、瀬底恒両氏の推薦で、白井による設計を希望した芹沢げ雹瓩陵彑舛鮗けて仲介の労をとったのも水原だった。

この白井の上州の時代は、原爆堂計画(1954,5),浅草善照寺(1958)それにエセー「縄文的なるもの」「豆腐」「めし」(1956)、「待庵の二畳」(1957)が生まれた時代でもある。  

 
水原氏の文に出ている白井自邸(滴々居)の入口

21:36 | 白井晟一に関する資料 | comments(1) | trackbacks(0)
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Comment
 初めまして。群馬県長野原町教育委員会の富田と申します。
 現在、水原徳言氏の妻の実家である狩宿茶屋本陣の建物保存に向けて基礎調査の概要版パンフレットを作成中です。その中で水原氏の顔写真を貴ブログで掲載した写真から抜粋して使わせていただくことは可能でしょうか? 
Posted by: 富田孝彦 |at: 2015/10/23 5:43 PM








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