Entry: main  << >>
時を刻むもの(1982.11.)

 

 1982年11月の『白井晟一研究 検戮寮酖催仍瓩縫ぅ鵐織凜紂爾靴拭崚々居と虚白庵の間」をチェックする必要があり久々に手に取った。その中に塩屋宋六のペンネームで本のの後記として書いた拙文を見つけたのが以下である。推敲してすこし改めた。36年前のものだが考え方はそれほど変わっていない。成長していないということか。

 

 時計の刻む「時」が、一日のうちの時分秒という時の符号だけでなく、人間の営為を刻印する逃れようのないものの実存の符号でもあるとしたら、それは過ぎ去っていく「今」が、絶え間なく生成する過去とのとぎれのない連続によってはじめて今の「時」を得ているという理解を前提とするものであろう。そのような時計はだから一瞬たりとも休止することのなかったという連続性を保証するものでなければならず、どのような異変や変動に見舞われても途切れのない運動の連続性を失うものであってはならない。それにたいして、時を分け、緩急変化をつけ、取捨選択、強調、推理、あるいは忘却、そして抽象や概念的な普遍化などの作為によって成立する歴史という解釈を、凌駕ときには解体するだけのリアリティーを持つものであり、歴史は空白や間断を許さないそのリアリティーに耐えうるものでなければならない筈である。

 しかしわれわれの歴史は恣意にとめられた時の空白が、歴史のリアリティーを著しく損傷しているにもかかわらず放置されたままであることが少なくない。日本の現代建築の歴史では「戦後」はいきなり瓦礫に埋もれた焦土の復興からはじまって、戦後をもたらした戦争という「時」はきれぎれに鈍い音をあげているか、あるいはまったく時を刻むのを止めてしまっているようでさえある。戦後40年にも至ろうとする時の流れの中で、戦争と建築家のかかわりを示すさまざまの事実は瓦礫の下に埋め込まれ、戦前と戦後を間断なくつなぐことによってはじめて成立しうる歴史のリアリティーが回復されることもなく、血と硝煙の経験を個人の閉鎖的な記憶のなかに封じ込めてきた。

 「建築の世界で建築家の戦争責任はどうなっているのか」というある文芸評論家の、言葉だけとってみればいささかドグマティックな問いかけが伝えられてきた。それは侵略や戦争に向かった帝国主義の国家体制と直接かかわった特定の建築家だけをとりあげて問うものではなく、戦争に向かった体制社会の中でとられた建築家としてのさまざまな行為や姿勢に対して、自らを含めてどのように自覚的に捉えられてきたかという問いとして捉えるのでなければ意味はない。

 教科書問題をきっかけに政界や官界ばかりでなく知識人、文化人と呼ばれている人々の示したものを見れば、戦争とその時を歴史に刻印するという基本的な作業と、そのうえではじめて可能なはずの、戦争とそれを準備した戦前から戦後を画しうる思想というものの希薄さや未成熟はひとり建築の世界にとどまらないと言えるが、国民の固有で共通のテーマを戦後求めながら十分に展開させることも説得力をもった提起を発信することもなく、むしろそれらを拡散さらには解体するさまざまの仕組みや論理に迎合して、現代建築を文化の領域として定位することも、自立した論理を発展させることもなかったのではないかという桎梏から解放されるものではない。

 経済高度成長の爛熟期の中で、建築の種々の問題が思想なき論理や概念に落とし込まれたのも当然の成り行きであったのかもしれない。その無思想性は経済成長の浮かれた世界ではけだし不快なものとはい言えず、むしろ建築と思想の片寄った野合から生まれる奇形をはらませることがなかったのは幸いであった。しかし歴史の大きな節目に切断や空白を残したまま語られる論理が、押しつけられた仕組みや思考を改革する資質にも、現象から表現を自立させるしたたかさにも欠けたものであったことは拭いようのない事実として認めざるを得ない。

 時計の告げた「今」が、過ぎ去った時との連続を保証するものでもなく、目につく他の時計と同じであることによってしか告げられた時の正しさを立証できないということは、その時計の告げる「時」の実在感を極めて希薄なものにしてしまう。何かあればまた止まって途中を飛ばしてしまうかもしれない不安を抱えた時計は、たまたま今の時刻を確認できても、それがもしかしたら数十年前、数百年前のその時刻であるかもしれないという疑いから自由になることはないのである。

                                                     白井磨

20:39 | 白井磨パーソナルブログ 「柊心居にて」 | comments(0) | trackbacks(0)
スポンサーサイト
20:39 | - | - | -
Comment








Trackback

Calendar

      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30      
<< September 2018 >>

Profile

Link

Entry

Comment

Trackback

Archives

Category

Search

Others

無料ブログ作成サービス JUGEM

Feed

Sponsored Links